松井 悠 氏

世界80カ国以上の代表選手が出場するeスポーツの世界大会『World Cyber Games』、中国・韓国政府主催によるeスポーツイベント『International E-sports Festival』といった、国際的なeスポーツイベントの日本プロデューサーを務めるかたわら、ゲーム業界の最新トレンドをまとめた『デジタルゲームの教科書』スーパーバイザーなど、国内外のゲームシーンで活躍されている松井 悠さんのインタビュー後編です(前編はこちら)。

それぞれの世界では知られた存在の松井さんですが、どのような活動を経て現在に至るかはあまり知られていません。今回は、インタビューを通じて、松井さんの過去から現在までの活動に迫ってみました。

eスポーツとの出会い

初めて「eスポーツ」の仕事として取り組んだのはどのイベントでしょうか?また、それはどのような経緯で関わる事になったのでしょうか?

松井: 「eスポーツ」という名称は特に意識しませんでしたが、「国際的なゲーム大会の仕事」というところでは、2001 年の 11 月に、JETRO が主催した、日韓交流祭ですね。韓国・釜山と日本・渋谷を繋いだゲームイベント2年連続で開催しました。

実際に「eスポーツ」というキーワードを聞いたのは、2005 年の『World Cyber Games』あたりからですね。経緯は当時 Counter-Strike や Quake3 で活躍された 松崎 "BRZRK" マークさんに「格闘ゲームの知識があり実況解説を出来る人物」として紹介していただいたのがきっかけです。ちなみに、その年の 8 月にラスベガスで開催された世界一の格闘ゲームイベント『EVOLUTION』にBRZRK さんと参戦したりもしました。

デスバレーボム in デスバレー デスバレーボム in デスバレー 2
この時の渡米の際に「アメリカ・デスバレーにてデスバレーボムを決める」
というネタを BRZRK 氏と共に披露する松井氏

eスポーツイベントの国際大会予選を多数開催されていますが、運営のノウハウなどは何かあったのでしょうか?

松井: ノウハウに関していうと、クラブイベント仕込みの部分と、ゲームイベント仕込みの部分、両方あります。クラブイベントについては、設営と撤収の効率化、ゲームイベントについては、導線や電源関連の部分ですね。どのイベントでもそうですが、常に予算や時間が限られている都合上、できないことも多々ありますが、なるべくプレイヤーに負担をかけないようにしたいと心がけています

とはいえ、ここ最近、国際大会の日本予選開催にあたって、告知から開催までがあまりにも短いのがなんとも難しいところですね。予算やスケジュールの兼ね合いでどうしてもギリギリになってしまいます。改善をしたいとは思っているんですが、なかなか……。

多数の eスポーツ関連の仕事をされていますが、本業とのバランスはどうなっているのでしょうか?

松井: 先ほども言いました通り、本業というか、メインの仕事がデザイン関連ですから、正直なところeスポーツ関連の売上は10%に満たないと思います。

それに、eスポーツの仕事は時間のとられかたが尋常ではないので、メインの仕事に負荷がかからないような時間帯で作業をすることが多いです。

eスポーツ関連の仕事を継続して行っている理由はなんでしょうか?仕事としての売り上げ比率は低いとのことですが、今後も継続して活動を続けていきますか?

松井: eスポーツ関連の仕事はほとんどライフワークですね。元々自分がプレイヤーであった事、当時日本一になっても評価されなかった事、自分を育て上げてくれた兄貴分プレイヤーたちへの恩返しとして、次の世代のプレイヤーたちによりよい環境を提供したい、という気持ちがモチベーションとなっています。

もちろん、eスポーツ に限定された話ではなく、ゲームを楽しむ事を今後も続けていきたいと思っていますし、いまでもゲームはプレイし続けています。

WCGアジアチャンピオンシップ ギターヒーロー
WCG2008 アジアチャンピオンシップ』ではプレーヤーとして
Guitar Hero III 部門に出場し、決勝トーナメントに進出。

昨年、書籍『デジタルゲームの教科書』を出版されました。この書籍が誕生する事になったきっかけについて教えてください。

松井: 『デジタルゲームの教科書』は、24 のテーマについて、18 人のライターが執筆している書籍で、ゲームの産業構造や、オンラインゲームの仕組み、国内外のゲームシーン、AI やプロシージャル技術、そして eスポーツ など、様々な内容が収録されています。

もともとの企画は「eスポーツ についての新書を作ろう」という物で、ソフトバンククリエイティブに持ち込んだのですが「eスポーツ の本は売れない!」と言われてしまい、そこから企画を発展させて『デジタルゲームの教科書』が誕生する事となりました。現在、2冊目の企画が進行していますので、そちらも形になったらぜひご紹介していただきたいと思います。

デジタルゲームの教科書
公式サイトでは無料版 PDF を配布中。

毎年海外のeスポーツ大会に行かれていますが、日本と海外のゲーマーの違いはありますか?

松井: よく言われる事ですが、日本はサブカルチャーをものすごく低次元の対象として認識する傾向があります。ゲーム、アニメに限らず、職業として成立しづらいものごと、平たく言えば金にならないことを真剣に、時間を割いてやっている人たちがほとんど評価されません。

例えば、日本で「ゲーム日本一だ」と言っても褒められる事はほとんど無く、一般的には「日本一になるほどゲームにのめり込むなんて…」というようなマイナス評価をされてしまうことがほとんどではないでしょうか。ですが、海外で「ゲームで日本一だ」と言うと、それはリスペクトの対象になります。この、評価に対する根っこの部分はもう変わらないと思うので、それはそれとして、そういうものだと思ってやっていくしかないでしょうね。

あとは、日本のゲーマーは、やっぱりメンタル面が弱い印象を受けます。特に、劣勢に追い込まれたときに跳ね返せないでそのままずるずるといってしまうことが多い。もちろん、それはアマチュアとしてゲームに取り組んでいるのか、プロとしてやっているのかの違いという部分もあるかと思いますが、海外のプロゲーマーは、メンタル面が非常に強い。もちろん、スキルについては言うまでもないですが……。

海外の eスポーツシーンの盛り上がりについて教えてください。

松井: これについては、語るときりがないので、これまで執筆したレポート記事をご覧いただければと思います(笑)。

大前提でいうと、日本よりは盛り上がっています。ただ、リーマンショック以降、広告宣伝費があつまらないこともあって、国際大会の運営もなかなか難しいところがあるそうです。

日本では、日本選手を渡航させるための金策が難しくぎりぎりまで決まらないため、開催直前になって選手を集めることになっているのはつらいところですね。日本では開催費用、渡航費用を運営サイドが持つのは当たり前という認識が強いですが、一部の国では、国際大会の予選選考に参加するための費用を参加選手が支払い、予選開催費に充当し渡航費用は自分たちで持つ、というところもあります。

予選が開催されない事で不満の意見が見られることもありますが、運営側が全ての費用を負担するというのは実は大変な事で、開催を実現するのも一苦労だという事を知っておいていただけると見方が変わってくるのではないでしょうか。

このほかに、国際大会については、個人でエントリーを行うことで参加できるものがいろいろとありますから、自己負担でそういった大会に一度参加してみるのも悪くはないと思います。uNleashed こと、田原 尚展さんみたいなスタイルですね。おそらく、良い意味で、ものすごいカルチャーショックを受けて帰ってくることになると思います。

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昨年中国で開催された『International E-sports/entertainment Festival 2010』の様子。
日本とは比較にならない規模だ。(写真提供: 松井氏)

日本代表選手団の引率や、海外での講演などをされていますが、英会話は堪能なのでしょうか?

松井: 正直なところ、中高大学と英語はほぼ赤点でした。実際に「英語をしゃべれるようにならなくては」と思ったのは18 歳の時にイギリスで開催された『鉄拳 3』の世界大会に渡航した時です。

当時は雑誌でライターの仕事もしており、編集長に「4 ページあけておくから、海外の鉄拳プレイヤーを取材してきてね」と英和辞典と和英辞典をセットで渡されました。先ほど申し上げたとおり英語は全くできなかったのですが、仕事なのでなんとしても原稿を作らなくてはならない。無理矢理英語で質問文章を作り、会場にいる選手達に辞書片手に片言の英語で突撃取材をしました。余談ですがその大会にイギリス代表として出場していたライアン・ハート選手は 13 年たったいまでも現役のプレイヤーで、この前も『Dreamhack Summer 2010』の Super Street Fighter IV 部門で優勝していました。

その後、2006 年まで海外で英語を使う機会に恵まれなかったのですが、イタリアで開催された『World Cyber Games 2006』に選手として同行していた Nao-K さんが非常に流ちょうな英語を話しているのを見て影響を受け、英語を再度学んだというところもあります。

英語の学習方法については説明しきれませんので、個人的に聞いていただけたらと思います。ヒアリング能力については、ローカライズされていない FPS のシナリオモードをやりまくっていると、かなり上がる、ということを一つお伝えしておきます。読み書きについては、正直僕は非常に低レベルなのでなんともいえません……。

「eスポーツ」についてどのように捉えられているでしょうか?

松井: 僕は「eスポーツ」でも「Competitive Gaming」でも「ガチゲーム」でもなんでもいいと思っています。

講演でも必ず、この点についてお話をするのですが、「デジタルゲームというコンテンツの遊び方」というところで、「プレイする」「コスプレする」「実況動画などを見る」「音楽を聴く」「自分で作る」などいろいろなものがありますよね。 その中の一つとして「ゲームを競う」という遊び方がある。その、「ゲームを競う」という遊び方を、海外では「electronic sports」つまり「eスポーツ」と呼んでいるのだと。僕は「eスポーツ」をそのように解釈しています。

ハーマンミラーエルゴキオスク仙台での講演
松井氏は「e-Sports」に関する様々な講演を行っている。
写真はハーマンミラーエルゴキオスク仙台にて行われた講演時のもの。

デジタルゲームを使って、「何らかの競技性を持たせる」事ができれば、それは「eスポーツ」といって良いのではないかと。「これは eスポーツ だ」とか「これは eスポーツ じゃない」という議論はそもそもずれているのではないでしょうか。ただ「競技として成立するか」という側面と「競技者が集まるか」という側面は別です。

あと、日本では「eスポーツ」という言葉自体がなんだか残念な響きになっているためなのかどうかわかりませんが、ゲーム大会を「eスポーツ」と称さない傾向もあります。それは、マーケティング的な志向もあるでしょうし、そこは企業や団体それぞれの判断ですね。

esports
「eスポーツ」については、松井氏が執筆を担当した『デジタルゲームの教科書
15章 デジタルゲームを競技として捉える「e-sports」が詳しい。

僕はこのようなゲーム競技を通じて、一人でも多くのプレイヤーに世界の風を感じてもらい、それを通して何かを見つけてもらえたら良いと思っています。元々、僕がゲーム関連の仕事についてのモチベーションは「喰えるゲーマー」を作ることです。ただ、勘違いしないでほしいのは、「ゲーマーを喰わせること」ではない。

日本だと、いろんなゲームメーカーが毎週末にプロモーションのイベントをやりますよね? あれは当たり前ですが「ゲームを買ってもらう」ためのイベントです。つまり、販売促進を目的としているわけです。そういう目的があるから、グッズも配るし、いい景品をや賞金を出したり、声優やタレントなどのゲストを呼んだりする。

日本のeスポーツイベントは、そういう販促イベントに比べると規模が小さいですよね。その違いの理由を考えたことのあるプレイヤーは少ないのではないでしょうか。

「プロゲーマー」に憧れているゲーマーは少なくないと思います。日本で「プロゲーマー」を目指すにはどうしたら良いでしょうか?

松井: まず、「プロゲーマー」の定義をきめないといけませんよね。韓国でいうと、『韓国 e-Sports 協会(KeSPA)』 という団体が、プロゲーマーのライセンスを発行しています。ヨーロッパのように、企業と契約をするプロゲーマーもいますし、アメリカには賞金大会を渡り歩くゲーマーもいます。そのどれを目指すのか、というところですが……。

それから「プロ」というところでいうと例えば、職業選手としてのプロなのか、活動をサポートしてもらうためのプロなのか、というところもあります。いずれにせよ、日本でそれを希望するのは、あまりにもつらく険しい道でしょうね。

夢を壊すようでなんですが、個人的な意見では「ゲームだけやって金もらって暮らせるなんて甘い話があるわけがない」と思っています。国際大会に出て優秀な成績を収め続ける、あるいは国内で大きなコミュニティを持つ、そういったスキルがないと厳しいでしょう。

先ほども言いましたが「ゲーマーとして喰えるかどうか」と聞かれればそれは「できる」といえます。実際の所、僕がそうですから。僕自身がゲーマーとして仕事をしてきた経歴ですが、「ライター」を皮切りに、「編集者」、「イベントオーガナイザー」、「ラジオ DJ」、「番組パーソナリティー」、「番組構成」、「広報宣伝」、「Web 制作」、「大学の講師」、「映像制作」、「産学共同研究のコーディネイト」といったものがあります。

松井氏
2011 年 1 月にデジタルハリウッド大学で「e-Sports」に関する講義を行なった際の松井氏。

これらは、すべて「ゲームができる」というスキルを持っていたからもらえた仕事ですから、「ゲームを通じて仕事をもらう」ということは実際にあり得るわけです。もちろん、ゲームのスキルだけではなんともなりませんが、少なくとも、そういった事例はある、ということです。

ゲームで日本一、世界一を目指してプレイすることはすばらしいこと。これを通して手に入れられる経験は何物にも代え難いものです。しかし、重要なのはバランス感覚であり、「いつか必ず社会に戻ら(出)なければならない」ことを認識したキャリアデザインをもって欲しいと思っています。

興味深いお話をありがとうございました。最後にコメントをお願い出来ますでしょうか。

松井: 現在、デジタルゲームの教科書のシリーズ展開第二弾として、「デジタルゲームの技術実例集(仮)」を制作しています。

また、ほぼ毎週木曜日に『デジタルゲームの教科書フリートークラジオ』を USTREAM で配信しています。ゲーム開発、ゲーム産業に興味のある人はぜひ聞きに来てもらいたいと思います。

それから、つい先日、新たなゲームメディア『gamer's express』を立ち上げました。これは、ゲームニュースの配信もそうですが、eスポーツ系のイベントレポートなども随時掲載していきたいと考えています。運営の側面として、ライターを育てていくこともやっていこうと思っています。かねてから言っている、「喰えるゲーマーを作っていく」ことの一環ですね(※ゲーマーを喰わせる、ではありませんので念のため)。興味のある人はぜひ問い合わせてください。

GAMER'S EXPRESS
松井さんが立ち上げたゲームメディア『gamer's express

ただし、いきなり最初からライターとしてガンガン活躍できる、なんて思わないでください。まず、最初の半年から一年は日本語レベルの修行期間になるでしょうが、それをクリアできれば、それなりに喰っていく事はできるようになると思います。

非常に長くなりましたが、Yossyさん、お話しする機会を与えてくださってありがとうございました。



松井さんの活動経歴については、今回紹介出来なかったものもかなりあります。これからも様々な企画が予定されているそうなので非常に楽しみです。

松井 悠 さん 松井 悠 さんプロフィール
株式会社グルーブシンク代表取締役。国際的なeスポーツ大会『World Cyber Games』の日本予選プロデューサー、『International e-Sports Festival』日本選手団医代表、書籍『デジタルゲームの教科書』スーパーパイザーなどマルチに活動している。
野良犬雑記 http://twitter.com/yumatsui/

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